「作られた美」を否定する、ダヴの「リアルビューティ」キャンペーン

マーケティング、特にプロモーションもしくはコミュニケーションと呼ばれる広告の世界で、もっとも世界的に有名で権威のある賞といえばカンヌ・ライオンズ。
世界中の広告クリエイターたちはこの賞を目指し、受賞すればその経歴にとって大きなプラスになります。
企業側も、ここで賞を取るということは先進的なキャンペーンをやっていると見なされます。
そのカンヌ・ライオンズを席巻しているのが、パーパスとよばれる、企業やブランドの存在意義・大義を全面的に表現する施策やソーシャルグッドと呼ばれるような社会課題解決を施行した施策です。

カンヌ自体、単なる広告業界のお祭りであり、受賞したからといって良い広告、効果の高い広告というわけではないという批判もあります。また昨今は受賞ねらいのソーシャルグッド施策が増えていることにも賛否両論があるものの、いまやマーケティングの世界でも社会課題解決に向き合うべきだという風潮はもはや常識となりつつあるように思います。

そんな「社会を変えようと働きかける、いわば物申す広告」の走りともいえるのが、2003年に始まったスキンケアブランドであるダヴは、世の中に氾濫する「過剰に」美しい女性のイメージによって、世の女性たちは自尊心を歪めさせられている、ということを社会課題と捉えました。
「過剰に」美しい女性のイメージとは、美容製品の広告に出演する数々のスーパーモデルのこと、つまりダヴは美容製品でありながら、他ブランドの広告手法を糾弾するという方法で明確な差別化戦略を打ち出したのです。

だからダヴはリアルビューティ以降一貫して、いわゆるプロモデルっぽい人を広告に出しません。
最初のキャンペーンは、グレイヘアーや妙齢の女性が登場し、ネガティブな言葉とポジティブな言葉、どちらを選択すべきか問いかけることから始まりました。
同時期に投下された「Evolution」は、広告の撮影から街頭ポスターができるまで、どれだけの加工がされているかということを暴くドキュメンタリー形式の衝撃的な映像で、ソーシャルメディアを中心に大きな反響を呼び、バイラルビデオと呼ばれる一連の、いわゆる「バズ」狙いの動画ブームの先駆けとなりました。

はもともとCMなどの映像制作の現場にいたことがあり、いわゆる肌修正などの画像加工についてはよく知っていたため、当時は「これ見せちゃうの?」と驚きました。

かなり「禁じ手」に近いことをやった、尖った広告だと思います。
これ以降のダヴは「リアルビューティ」という旗印のもと、「作られた美ではなく、その人本来の美しさを引き出し、自己肯定感を高めることで、すべての女性に自信を取り戻させる」というブランディングを一貫して続けています。

日本の女子高生は他国に比べて自己肯定感が低い、という調査結果に基づき、日本でローンチした「リアルビューティID」という施策もありました。

ほとんどの生徒が気に入っていない「学生証の写真」を、ある日突然学校で撮影するといわれ、一人ずつ教室に入っていくと、そこで友人が「自分の長所」を語るビデオを見せられます。

そのビデオを見た後に撮影した写真はみんな笑顔になっている、というショートムービーとなっていて、人は自信を持っていれば美しくなれる、というメッセージが込められているように感じます。

ダヴの活動を語るうえで重要なことは、これが単なる広告キャンペーンではないというところだろう。リアルビューティキャンペーンを始めるにあたり。「セルフエスティーム基金」を設立し、
人々の自己肯定感を高めるワークショップなどを定期的に行っています。

口だけではなく実際に社会を変えるための活動をすることは、ブランドパーパスを示すうえで何よりも重要なことと思います。
その背景にはリサーチによる「女性の自己肯定感の低さ」をエビデンスとしてとらえ、その背景を考えるという本質的で地道な活動にあり、これは顧客の問題をとらえ、その隠れた原因を見つけ出し、解消するという「インサイトリサーチ」そのものといえます。

「ブランド」とは、意味であり、連想(イメージ)であるといわれます。
優れたブランディング活動は適切にそのブランドの持つ意味、連想をひろげ、価値を高めます。
スキンケアブランドであるダヴは、基本的には「肌を整える」ことをひとつの機能価値として持っていいます。
スキンケア製品は、基本的に「肌悩み」から顧客を開放するという「便益」によって選択されます。
リアルビューティ以降のダヴは、その機能価値に加え、顧客を苦しめる「偏見」からも解放することを約束(ブランドプロミス)したといえます。
これは機能価値を超えた「社会価値」とでも呼べるものかもしれません。

またダヴはコロナ禍のさい、崩壊寸前の医療現場で献身的に働く医療従事者を応援する「Courage is Beautiful」キャンペーンを行いました。
ダヴを人々を偏見や抑圧から解放するブランドとして応援している顧客なら、このような社会的メッセージにも共感すると思われます。

マスクの跡が生々しいビジュアルは、スキンケア製品の広告としてはあまりにも異質ですが、そこにBeatiful(美しさ)を見出すというメッセージは、見るものに強烈なインパクトを与えます。

企業やブランドの存在意義・大義(パーパス)を打ち出したマーケティングをする場合、たとえば製品開発においても、それを使う顧客に後ろめたさを感じさせたりしないように、環境に配慮しているというようなことも必要になってきます。

パーパスのような正論はときに受け手の反感を買うこともあり「偉そうなことを言っていても、モノがちゃんとしていないじゃないか」などと言われてしまうからです。
そのような「守り」の要素も、パーパスドリブンなマーケティングでは重要となります。

当然、ダヴにおいても例外ではない。プロダクトや広告や従業員さえも、ブランドパーパス実現のための手段となっています。

すべてがパーパスのもとに一貫性を持ち、パーパスに奉仕しているかということが問われるのが、「パーパスドリブン・マーケティング」といわれる施策です。

あらゆる製品・サービスの機能価値が向上し、もはや品質としてそれほど差がなくなりつつある
現代において、機能価値だけでは選ばれにくくなり、最終的にはコスト競争になってしまいます。
パーパスを明確に打ち出し、共感する人たちに選ばれるブランドになることは、この過当競争から抜け出し独自のポジションを確立する有効な方法といえそうです。

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